#1 石

冬の琵琶湖。越冬の鴨達が湖面にたくさん浮いている。
岸の近くで湖底にある藻をついばんでいたり、岸から離れた沖でさざなみに身を任せている。
湖畔にたたずむひとりの男。
「くそっ!俺はいったい何をしてるんだ!」小さな石を握りたたずんでいる。

「おいおい、黒井君、何やっての?またエラー出ているよ!同じことなんども言わせないでよ」
製造工場のライン現場で金型から吐き出される金属部品の最終検品ライン。
隣には若い女性や年配の女性が同じ検品作業をしている。
「隣のはるかちゃんの方が仕事の精度が高いよ。これは高価な検査機械なんだから、ちゃんと作業ポイントを理解して検品作業してくれれば、検査精度は機械が上げてくれるの。余計なことばかり考えて、集中力が足りないんじゃないの?給料だけの能率は上げてね」
「はい。」検査機器のモニターを見ながら小さくうなずく。
「じゃ、俺は行くから、引き続きよろしく!」検査ラインを離れていく上司。
「黒井君、気にすることないよ。流れてくる部品が悪いんだから、
検査精度を上げるのなら、もっと、前段階の精度をあげないとね。」
隣のはるかが黒井に優しく声をかける。
「ありがとう、はるかさん。」
作業を続ける黒井。

男が握っていた石を琵琶湖に向かって力いっぱい投げる。
すぐに振り返り湖畔から離れていく。

「ボチャン!」石が沖に浮いている鴨の間に大きな音をたてて落ちてくる。
一斉に飛び立つ鴨。

湖畔から120mの沖に大きな波紋が広がる。

オレンジ色の湖面に広がる波紋に浮かび上がる文字。

BLACK DOGS