鉛筆力

 デザインの仕事をしている関係でいろいろな筆記道具を使います。その中で鉛筆はイラストを描く時の下絵やデザインラフを描く時などの、比較的気軽にライトに何かを描きたい時に活用しています。その利点は、「軽さ」と「タッチ」です。消しゴムで消せるという利点も勿論ありますが、鉛筆のツールとしての利点は鉛筆本体が木製なので軽い上、手の感触としてプラスチックやアルミなどのように硬い感触ではなく、木の感触が手にマッチするという利点です。その感触は実際に用紙に何かを描く時のタッチにも作用してきます。筆圧を上げれば濃くなり、下げれば繊細な線が描けます。ナイフで鋭く研げば細かい描写に適し、丸くなればラフで力強い大胆な描写に適しています。私は描写用の鉛筆を4Hから6Bまでの12種類を持っているのですが、それぞれに細く削ったり、荒々しく描くことで、ほぼ無限の表現力があります。

 芸大の頃、デザインの基本技術を学ぶとレニーングで、白から黒までの10段階を1本の鉛筆で描き分けるという課題がありましたが、正にそういうことで、実は鉛筆1本あれば、かなりの表現力を手に入れることができるのです。テクニック次第ではりますが、この鉛筆の表現力に勝る描画ツールはありません。

 そこでこの特徴を整理して「鉛筆力」というテクニックをしっかりとまとめてみようと思っています。恐らく、これまで人生で鉛筆を使ったことのない人はいないだろうし、一番、親近感があり、製図専用のシャープペンシルやイラスト用のカラーマーカーなどと比較しても安価です。そんな安価なツールなのに、テクニック次第で高いレベルの表現力があり、仕事や趣味や日常生活のいろいろな場面で豊かな成果を上げられれば、とても有意義で有効だと思います。しかし、それでも鉛筆はただのツールなので、使う人の想像力やテクニックが当然成果物に作用しますから、そこも同時にテクニックとして引き上げるということが大切です。

 何歳になっても、仕事で毎日デジタルツールを使う立場でも、デジタルツールで描いた絵は好きになれません。好きになれないというか、あれは正確には「絵らしきもの」であって、一旦、タブレットやタッチ画面で擬似演算されているカラフルなデジタルデータに過ぎません。優れた五感を持つ人間が好感を抱くはずがないのです。おまじないのように「本物みたいな絵だ」と黙視的に思い込みたい人は、心地よく騙され続けていればいいが、本質な微細な絵とはほど遠いピクセルの集合だということ、人間の頭は知っています。まぁ、便利の「おまじない」みたいなモノですね。「ナムアミダブツ」と唱えて、天国と地獄を人間は生み出せるのだから、それが幸福の方程式なのでしょう。デジタルツールも同じ。