読書の秋。

 決して多くはないが、いろいろな本を読んできました。「読書の秋」という言葉があるぐらいなので、秋は書籍に親しみやすい季節です。夏と冬の間で少し気持ちを整理したいと考えたり、新しい情報や刺激を知りたいという探究心が生まれやすい季節だからだと思います。ある著者が脳を活性化するためには、自分の好きなジャンルの書籍とまったく未知のジャンルをバランス良く読んだ方がいいと書いていたので、長年(社会人になってから)、その努力を自分なりにしてきました。仕事や趣味の世界や本質的に興味がある分野と、まったく未経験で興味がないというよりも、否定的で拒絶しているような分野を努力して均等に読んできた。興味があり好きな分野の書籍の場合、ある程度自身もその分野の知識があるため、共感できることが多く、実感できることも多いため、著者と自分の知識や実感を比較したりしながら、新しい発見や驚きが楽しい。一方、否定的な分野でも著者の考え方やテーマの捉え方が想定外だったり、知識や経験がないだけで本当はいろいろな魅力が自分との共通点があるのだと知ることも多く楽しかったりします。

 小説で言えば、好きな作家と嫌いな作家がいて、水と油のように自分の中では分かれています。若い頃、一旦、分けてしまったらこの二つの分野や絶対に交わらず、好きゾーンと嫌いゾーンをオセロの盤面のように明確に分けていた。そのひとつに「芥川賞」を受賞した作品は読まないという妙な偏食傾向があり、少しだけ作家さんの情報を調べたりするものの、作品を読むことは絶対になかった。芥川龍之介についてはほぼ読んでいるが、私は「芥川賞受賞作品」については色眼鏡を外せなかったのです。

 しかし、数年前「穴」という作品を何故か読んでみたくなり、購入して3回ほど読んだ。まず、何故、否定的だった分野の作品を読もうと思った理由もその経緯も忘れたが、唯一、記憶しているのは、書店でその書籍を発見した時のその装丁デザインが印象的だったからのように思っています。その装丁デザインが「穴」というタイトルとはどこかかけ離れている印象があり、私の中で「芥川賞」「穴」「装丁デザイン」とうい三点バランスが妙に成立した、ような記憶があります。内容や感想について何も述べるつもりはありませんが、あれから数年、毎日の思考の中や行動の中で、穴を探している自分に気がつきました。すると、「穴(作品)」の中で登場した様々なシーンが部分的に映像で頭の中に現れ、毎日の風景の中や思考の中で穴を探す感覚(タイミング)と一致するようになったのです。穴と言えば、小さい蟻の巣穴から、壮大なブラックホールまでありますし、思考の穴と言えば「忘却(など)」、行動の穴と言えば「失敗(など)」と位置づけている、ような感覚なのです。

 つまり、私はこの作者(名前は覚えていない)の心地よい穴に落ちたのです。

 読書の秋、そんな素敵な書籍との出会いを期待しています。