事件は現場で起きている。

 「事件は現場で起きている。会議室で起きているんじゃない!」という内容の有名な映画のセリフがありますが、現場と会議質の関係を自分自身に置き換えてみると、思考が会議室、行動が現場のような関係になります。この年齢(51歳)になっても、デザインの仕事をしていて分からないことが発生します(というか分からないことばかり)。そんな時、専門書を調べる、ネットでエキスパートの意見を調べる、専門家に相談するなどと試行錯誤をして、問題解決のとば口に辿り着く。この連続です。デザインの仕事に限ったことではないのですが(デザインの仕事しかしてこなかったので知識不足)、思考と行動をつなげているのはテクニックです。当然、思考の前段階にもテクニックがあり、行動後、つまり、何か成果物を生み出した後のテクニックもあります。デザインテクニックと言うと、一般的にその中間の思考から行動につなげるための「つくる」テクニックを注目されがちで、前後関係はあまり重要視されない傾向があります。

 例えば、ルアー釣りをはじめたい、ブラックバスを釣りたい、大会で優勝したという狙いを設定した場合、当然、目立つテクニックは道具や釣り方やフィールドの選択です。釣れないフィールドよりもつれるフィールドの情報を得る方がブラックバスが釣れるからです。そして、どのように実際釣れたかという実感を経て自分の道具や釣り方のテクニックをブラッシュアップ・バージョンアップさせる。そういう経験を何回も繰り返しながら自分のテクニックのレベルを上げていく。その結果が「優勝」という成果であり、評価となるのです。しかし、どうしても傾向として道具の吟味や釣り方のテクニック情報が単純で分かりやすいため、そして、入手が容易なため、そればかりを集めて、逆に混乱している人も少なくありません。問題は、その前後にある、ルアー釣りをはじめたいとひらめいたきっかけや、その気持ちを得た機会のことを再確認することで「自分らしい工夫や釣り方のアイディア」に気づきます。また、釣れなかった経験を重ねていると、同様に道具や釣り方ばかりに理由や要因をもとめて、本来の気持ちを曖昧にしたまま道具を変えたり、釣り方を変えたりして、進化・進歩のない思考と行動を繰り返す。これが、スランプです。レベルアップも実現しません。イップスとは自己抑制であり危険を回避するバイアスが過剰に思考や行動を抑制してしまうことですが、スランプは思考パターンや行動パターンを能動的・主体的に変えること、つまり、自分の判断で前後関係に意識を広げることで解決する場合が非常に多いです。

 話をデザインの仕事に戻しますが、当然、バス釣りと同じようなことがデザインの仕事現場でも日々起こっていて、スランプもあればイップスもあればバイアスもある中、自分自身の中の触りたくなようなドロドロベトベトとした部分やトゲトゲツンツンした部分に勇気を出し、タッチすることで痛みは伴いますが、視野が広がり深さや奥行を発見できます。危険ゾーンを避け、会議室のような空間で思考だけを重ねていると、当然、行動力が劣化・退化・低下します。傷つきやすい体質・気質になります。現場は無菌室ではないので、耐久性(タフさと柔軟さと良い加減(適正)さ)が必要なのです。

 養老さんが現代の人間は危険を回避するために都市をつくりその中に退避した。自然の驚異から逃げるために。自然の驚異は予測不可能なことであり、人間の存在を無視するからだと(原文ではありません)。都市空間を象徴する空間とは何か?と自分の経験で振り返ると一番シンボル的な場所は会議室でした。クリーンな会議室で思考を幾重にも重ね合い、引き合わせ、ねんど遊びに興じていれば、まず、危険はありません。ドロドロベトベトトゲトゲツンツンは排除された空間が会議室だからです。よりも、私は現場が大好きです。豪雨の中、ボートの上でレインウエアを着てルアーを投げていると身体的にも精神的にも非常に辛い状況ですが、思考の集中力が高まりメンタルが鋭敏になる実感があります。ロッドにバスのバイトが伝わった瞬間、身体が反応する感覚こそが現場のリアル(実感)だからです。その先にしか実は本当(自分が狙う)の成果はないのです。