セレンゲティ平原。

 日経新聞に総合研究大学院大学学長の長谷川真理子さんがショーン・B・キャロル著の「セレンゲティ・ルール」と書籍を紹介していた。セレンゲティ・ルールとは生物に共通する制御メカニズムの法則である。そのひとつに「二重否定による制御」というのがあり、何かの量を制御するのに、一つの量があるのではなく、ある量を増やすように働く要因と、それ自身を制御する二つの要因があり、それらがうまく作用することで全体のバランスを制御していて、コレステロール量も、がん細胞の増殖も、アフリカのセレンゲティ平原の有蹄類の個体数も、みな同じなのだそうです。単純に「BがAを抑える」のではなく、「Aを増やすBがあり、Bを抑えるCがある」ので、Aが正常に維持されると。生態系は複雑で鍵になる生物がいなくなると、それがXを引き起こし、それがさらにYを引き起こし、という具合にどんどん連鎖が起こるだそうです。「風が吹くと桶屋が儲かる」のかに対する説得力のある書籍なのだそうだ。ヒトが行っている経済活動も、生物間の相互作用の一つであり、競争、密度、サイズの影響など、想像力を働かせれば、経済活動にも当てはまるだろうと長谷川さんは締めている。

 非常に興味が沸く書籍である。

 「制御の法則」が記述されているとしたらDNAの中だろうし、オートマチックにこの制御が効いている状態ならば、恐らくこの著者はこの本を書かなかっただろうし、仕事だったとしても長谷川さんに何かしらの同じ危機感がなければ、著者との共感が生まれていなければこの記事は成立しない。いわば新聞の記事にも「制御の法則」が作用しているだろうし、新聞というメディア自体が「制御」そのものなのかもしれない。書籍として世に送り出す以上、この著者は生物学者である自らの存在を誰かに伝えたいと考えた結果、この書籍が生まれている。ここにも恐らく「制御の法則」が作用しているのだ。

 では、何故?このタイミングで間合いだったのだろう?

 恐らくこの著者も学長も同じ危機感を持たれ、同じ価値観で書をまとめ紹介文を書かれたのだ。本来ならばオートマチックに制御の法則が作用しているのに、その法則を崩す亀裂が見えたのだろう。この著者のように生物学者としての知識もキャリアもまったくない私でさえ、この紹介文からその「危機感」を読み取ったわけだから、この新聞記事を目にした人の中にもこの感覚を共有できるかもしれない。Aを正常に維持するために、BとCを意識しなければならない現代なのだ。