PCスキル。

 「PCスキル」という言葉がある。「PCが得意である」という人は得意ではないという人と比較して求人数が約13倍。年収に換算すると23万円も格差があるというデータがある。これらのアンケート調査結果はオフィス系ソフトウエアに限られている「PCスキル」のお話なのですが、それでも、「PCが得意」であるということはビジネスの現場でそれなりのアドバンテージがあることになる。恐らく、マイクロソフトのオフィスや会計ソフトや顧客管理・仕入れ・売り上げに関する業務を指しているのだろうが、私はオフィス系のPCスキルはほぼ長けていない。デザインの仕事を展開する上で必要なソフトではあるが、別段、長けている必要がないからだ。確かにエクセルやパワーポイントなどは資料づくりには便利だと思うが、けっこう安易に捉えている。それらのソフトウエアだったら「マニュアルを読んでただ使えば使えるでしょう」程度の安易さである。つまり、それぞれのオフィス系のソフトはそれらのファンクション(機能)をどこまで実務に応用するかがポイントであり、ファンクションを目的に合わせて選択していくこと。単純な操作ミスさえなければ比較的、誰でも使えるソフトウエアのジャンルだと捉えて、深く掘り下げようとはしてこなかった。そもそものニーズの問題である。

 一方、アドビに代表されるクリエティブ関連のソフトウエアは当然、オペレーション的な使い方も基本・王道ではあるが、そもそもの目的や意図もつくり手のポテンシャル(素質)に左右される。また、正確無比で高効率さだけが目的ではないので、感覚やテイストなどの曖昧だけれど、コンテンツの完成度を引き上げようとする知識や技能も連携させなければならない。ま、それはつくり手のポテンシャル次第なので、そこまで求めなければオペレーションに徹するだけで充分に「PCスキル」は成立する。この感覚の部分と従来のソフトウエアのファンクションとの相性が意外と均一ではなく、ムラがあることに気づいていない人が多いように思う。つまり、これらのソフトウエアの機能を覚えた環境によって、習得できるスキルが異なるからだ。

 仮にアドビのイラストレーターというソフトウエア。代表的なDTPソフトだが、全機能が1,000あったとする。長年、バージョンアップを繰り返し、現在はCCになっているが、デザインワークには欠かせない代表的なソフトウエアである。学校で基礎的な部分の300を習得してあとは独学で習得した。そして、仕事現場に就くとよほどの大手広告代理店でなければ、仕事のバリエーションはパターン化している。300の基礎知識を現場のコンテンツに応用しながら、必要に応じて新しいファンクションを習得すれば仕事は成立するだろう。そうなると、実際、使っている機能は50ぐらいになる。そして、その仕事スタイルがルーティーン化されていくと、残りの250やまだ知らない700の機能は「必要なし」と判断され選択しなくとも仕事は成立するので習得の機会を逃す。実際、イラストレーターのローバージョンから使っている人ならよく分かるだろうが、結構、現在のイラストレーターは一見多機能になったように思え、実際は「この機能、一生使わねぇな」というゾーンが多い。また、「デザインテクニック100」みたいなコンセプトの書籍を読んでも、90個ほどは「これは実際に仕事に使わないだろう」というテクニックがピックアップされていることが多い。デザインワークとソフトウエアの関係って、意外と最大公約数は狭いのだ。ということは、デザインワークに関して「PCスキル」よりも大切なスキルがあるということになる。

 さて、そんな意識からそのゾーンを網羅した本を長年リサーチをしてきた。ずっと、結構、真剣にリサーチしてきた。しかし、そんな都合のよい本はまだ一冊も出会えていない。「それはそれぞれの現場でしっかり習得するべきスキルだから」がその理由だろうが、でも、それが一番知りたい。33年間もデザインの仕事をしてきて、イラストレーターに限っては英語版から使ってきた私でさえ、そんな本があれば必ず即購入するだろう。仮にそのスキルが習得できたとして、求人件数が増えたり、年収が増加するとは思えないが、欲しい人は多いはず。