絵を描く手順。

「絵(イラスト)の上手い人は、特殊な能力(才能)を持った人間なんじゃないだろうか?」

「イラストを描いて作品を販売したいと思い立ち、専門学校に通った。
しかし、イマイチ上達しなかった、自分の納得いく作品が描けていない」
というご相談を聞く機会が過去にありました。

「デッサンレベルでは模写は出来るようになったけど、オリジナルのイラストが描けるようにはならなかった」と。また、絵画教室の先生に描き方について説明を聞いたのだけれど、曖昧などこか釈然としない解答しか得られなかった。解剖学、パース、色彩など一通り知識を勉強したけど、それでも上手くいかなかったらしい。

 恐らくですが「絵の上手い人は描く前に頭の中に絵の完成形があり、そのイメージを紙に転写して、ただそれをなぞるだけで絵が描けてしまうのでは?」とかなり深い分析をしておられる方もおられました。

 確かに細かい手順を整理すると、結果、そういうことなのかもしれないが、技術的な上手い下手については一旦棚に上げ、そもそも絵を描くという手順は「描く技術」だけの問題ではないのです。

 どんなレベル・テーマの絵を描くかが決まっていない状態で、描き出すことはできない。ただ、しっかり考えてから全ての手順を一呼吸置きながら段階的に描くという手順というわけではなく、手を動かしながら頭の中のイメージを自由に変更する感覚が強く、この感覚は「絵を描くぞ」とスイッチを入れてから発生するわけではなく、常日頃からそういう見方をしていたり、そういう思考状態が多いのです。

 「see」ではなく、「look & watch」の状態です。

 曖昧にならぬようにその手順を説明すると、

 「見る」→「考える(イメージする)」→「描く」の3段階なのです。

 ただ、この手順が分断されずに一連の流れの中で進み、時々、描き始めても「見る」「考える」ことを繰り返している。当然、人間だから先入観や固定観念が作用するし、単に間違って解釈することもあるので、都度、修正しながら描く。一旦、描き出したらその絵を冷静に「見る」という作業も発生する。習作として描くのならここまでの手順を納得が行くまで繰り返せば、完成度は上がるだろう。

 しかし、これが仕事として誰か(企業)から発注されたイラストレーションの仕事となると、呑気な単純な手順では仕事が成立しない。クライアントさんからのいろいろな要望がこの手順を悉く変えてしまうからだ。当然、クオリティーを下げることはできないし、要望を達成した上で、できればそれ以上の何か工夫を追加したいと欲も生まれる。「これでいいかな?」と思っていても、クライアントさんが「この部分は違う」となれば、絶対に対応しなければならないし、要望のポイントがズレている場合はプロとして指摘しなければ信頼関係は築けない。

 プロの描き手ともなれば、そこまでの対応をしなければならないので、そこそこの決意でそこそこのテクニックで仕事としてのイラストは成立しないのだ。で、改めて絵を描く手順とは、基本に戻り「見る→イメージする→描く」の手順をしっかり機能させてコツコツと描くしかないのです。

 よく評論家や審査員的な立場の人が「この筆のタッチには迷いがないですな」などと言っている場面をテレビなどで観るが、それは絵を描いたことのない人の言葉。絵を描く以上、あなた達の想像もできないレベルの「迷い」に見舞われて、モヤモヤしながらも描き手さん達は筆をペンを動かしているのですから。つまり、曖昧な結論になりますが、絵を描くって「迷い」と仲良くなる(調教する)ことなのかもしれません。そりゃ、自分の思い通りにライオンが火の輪を潜ったらグレイテストショーの気分です。