つくり手の心得#004「作業スピード」

 僕は「せっかち」なのでいろいろ仕事がタイトになってくると、すぐに仕事が「雑」になる。どんな仕事も公平に集中することが基本だと頭で分かっていても、いろいろな条件(優先順位など)を勝手に振り分けて、丁寧さや慎重さの割合に格差が生じる。生じるなどと、他人事のような言い草になってしまうが、実際の仕事現場って多かれ少なかれそんな感じで優先順位を決めてしまうことってクリエティブワークの「あるある」だと思うのです。

 なんせ、手は2本、時間は一定の速度で進んでいるので、1時間に仕上げなければならないデザインワークが1本の場合と10本の場合では当然、ひとつにかける時間が1/10になる。で、つくり手(クリエイター)に求められるスキルが「作業スピード」なんです。

 昔、広告代理店の制作会社で仕事をしてた時、代理店のディレクターさんに「遅い仕事は学生でもやりよるで!」と仕事している裏でガミガミ言われながらデザインをつくっていた。
「そんなガミガミ言うならお前がやれよ!」という言葉を飲み込みながら、必死に手を動かしていました。当然、間違いやケアレスミスが多くなるし、デザインの完成度は上がらない。吟味してチューニング(微調整)する時間が貰えないからだ。1年中そんな仕事のペースだったから、同時に鍛えられたとも言えなくないが、僕は「せっかち(雑)」になってしまった。

 この姿勢、一時が万事なので、いつか師匠のように物静かにゆっくりと腕を組み、デザインの熟考に浸るような佇まいが醸し出せないものかと感じつつ56歳になってしまった。

 さて、そんな経験の末、僕は「せっかち」が身体に沁み込んでしまい、「雑」になることが多いと自己分析するようになってから、無理矢理、仕事の作業スピードにブレーキをかけ、シフトダウンするよう努力しています。当然、そうすることでたくさんの発見もあるし、ケアレスミスも激減。そして、デザインのチューニングポイントも良く見えるようになったし、根本が捻れていたり方向性がスタートラインからぶれている場合なども発見できるようになった。

 しかも、「せっかち」なので、そこそこの作業スピードなので、1ギアシフトダウンしても速度は一般的な速度よりも落ちていません。それを自覚した事例としては、以前、テレビ局の映像用ボードの制作をしていたディレクターさんの仕事をさせていただいていた際、毎週、数十分単位のスケジュールでデザイン制作に取り組んでいた。ディレクターさんからのご要望案件には必ず仕上げ時間の目途が記載されていて、それ以上時間が経過していまうと、「もっと早くできないですか?」と警告を受けた。さすが、民放のテレビ局の番組制作の現場で、テレビ画面の制作オペレーションを次から次へと仕上げ、放映するとなれば、「トップスピード」と「完璧完全な仕上げ」を両立しなければならなったそうです。そんなエキスパートの方と長浜にいながら仕事を出来たのはとても幸運だった。最初の数ヶ月はまったくスピードも完成度も上がらず、苦労したが、半年ぐらいから、なんとなくポイントが分かり、警告を受けなくなった。たまに慣れてきてケアレスミスを連発した時は激怒されたが、それでも、良質な経験だったと捉えている。

 つまり、デザインのプロなんだから良質な「知識・技術・経験値・感覚・人格」はあたりまえ。その上で、作業の「スピード&品質」もとことんまで追求しなければならないのです。「これでいいじゃん」ってなってしまったら、そこで「成長」も「進化」も、さらに「デザイン力」も止まります。