つくり手の心得#006「水平と直角」

 私達は日頃から水平・垂直・直角を重んじる世界に生きているので、少しでも、例え僅か1度でも傾いたり、歪んでいると違和感を感じる。感覚的に不安定さを感じるのだ。しかし、この作用を利用して意図的に際立てたい場合は少しだけ紙面の上のパーツを傾けるという手法がある。必ずしも安定した構図や画画が良質なデザイン表現とは限らないのである。

 例えば、ポスターのロゴ。大抵、吟味するのは位置とサイズ感であり、時計廻りに15度傾けることはよほどの意図や狙いがなければしない。水平と垂直を徹底的にキープすることをセオリーと捉え、傾けることはある意味、タブーなのだ。

 以前、伊勢志摩にある観光ホテルのパンフレットを制作した時、その頃はまだ制作会社にMACが導入され、アナログ作業で版下を制作していた時代。文字の印画紙を台紙に水平・垂直に貼る技術はグラフィックデザイナーが仕事の完成度を上げるためにマスト(真骨頂)だった。少しでも狂っていれば徹底的に水平・垂直を出していた。パンフレットのデザインに限らず、新聞広告でもポスターでも同じ。この基本ルールについて東京でグラフィックデザインを始めた頃にもディレクターの上司から徹底的に注意され叩き込まれたので、僕は完全に水平・垂直があたまりまえで、傾いていることはデザインの仕事において最大の蛮行だと神経質になり過ぎていた。むしろ、水平・垂直さえキープできれば、文字のサイズと配置については感覚的な部分の吟味になるので、簡単と言えば簡単で安易に捉え始めていた頃だった。

 ある日、制作途中のパンフレットデザインをクライアントに見せたとき、
「う~ん、なんかイマイチですね」と言われた。
 紙面的の中に配置した、キャッチコピー、リードコピー、本文、そして、写真やイラストやロゴなど。僕の中では要望を100%反映できているという自信があったし、どこにもスキはないという確信があったのだが。この「なんかイマイチ」という反応について、僕は極力、強く抵抗しない主義をとっている。いくらつくり手が完璧だと一方的に思い込んでいても、クライアントが「イマイチ」だと評価した場合、そのデザインは「イマイチ」なのだ。アイディア、工夫、オリジナリティー、意図、時代性、テクニックなどなど、何か足りないか何か余計な要素が画面の中に必ずあるのだ。

 で、僕はひらめいた。クライアントを会議室で待たせて、自分のデスクに戻り、制作途中の版下のキャッチコピーを時計廻りに15度程度傾けた。上下左右のスペーシングを吟味した位置にキャッチコピーを貼り込み、その版下をコピーしてクライアントに見せた。そのコピーを見た瞬間、モヤモヤしてたクライアントさんは
「よし!これでいきましょう!」と満足してくださった。

 結果、そのパンフレットは次の年のデザイン年鑑に紹介して頂き、僕の中でひとつの大きなグラフィックデザインの考え方や表現力の幅が少しだけ広くなれた経験になった。この経験が当然、DTP作業、イラストレーターのグラフィックデザイン制作にも有効に作用して、水平・垂直で一旦、レイアウトを完成させてから、自己分析後、イマイチ感が生まれたら、いろいなパーツを意図的に傾けたり、歪ませたり、変形させたりしてチューニングをしています。