実は素人モードが一番楽しい!?

 若い頃はとにかくクリエーターとしてプロになるためにいろいろなことに貪欲でした。ま、どんな仕事でも皆さん同じだと思いますが、よく、20代の頃、クライアントさんとか広告代理店の偉い方に言われたのが「30歳までにレベルアップしないとそのあとは成長がないよ」と言われてきた。この言葉の意味がようやく50歳を超えたあたりから少しずつ分かってきました。「成長」という言葉の定義ってこういうことなんだなと最近反芻しています。その頃の「成長」という言葉の意味は「さらに稼ぐこと」としか捉えていなかったのですが、実はもっと深い意味があったのです。

 いつまでも「素人レベル」では稼ぐことすらほど遠いのですが、なかなかこの世界(デザイン)、レベルアップするのは実際、大変です。何を指して「成長」と捉えるのかなのですが、まず、基本的なデザインの仕事ができること、次にデザインの仕事を仕切れること、次にビジネス面でデザインの仕事を成立させること、そして、クリエティブワークと経営面をしっかり両立させることまでがゴールだと思います。つまり、40歳で仕事を仕切れないというレベルでは成長に値しないという解釈です。20代でそんなことを言われても「なんのことやら?!」でしたが、今思うとそんな言葉をなまいきな若造に言ってくださったことで、自分自身の人生設計の目標を明確にしていただけたんだという感謝の気持ちでいっぱいです。だから、若いクリエイターさんとデザインワークについてお話する機会があると、同じ内容のことを必ず伝えるようにしています。

 で、自身へのいろいろなプレッシャーをかけていくことはとても意義のあることなのですが、このプレッシャー想像以上に大きく複雑です。なんせ、指針を失い動機が低下するとデザインの仕事なんて非常に曖昧な部分が多いので自信を失うのです。確固たる明確な権威としての国家試験があるわけもないし、この仕事にはなんの保証もありません。だから、すべて自己責任で立ち回る必要があるのです。だから、評価も独り占めできますが、トラブルやミステイクはすべてケツを拭く必要があります。この覚悟、雇われているうちは会社や上司が養護してくださりますが、フリーランスや自営個人事業主になった日にはすべて自分で背負わねばなりません。これに耐えるにはよほどのタフさが必要なんです。そんな日々を繰り返しているといつしかデザインの仕事が楽しくなくなる。これはもうレッドカード。つまり、どんな仕事でも同じだと思いますが、プロになりレベルを上げていくと、同じような負荷が重なり、仕事が楽しくなくなるのです。

 私の場合、もう何周も何周もこのトラックをひたすら走ってきたので、これらのプレッシャーや負荷が麻痺してきた感覚があります。決して、どうでもいいとか、手綱やふんどしを緩めたり、はちまきを解いたわけではないのですが、この仕事を始めた頃のドキドキやワクワクを無理苦理思い出して日々のエネルギーに変換しています。

 確かにプロフェッショナル意識をキープすることは絶対条件なのですが、自分に枷を付け過ぎると動きが鈍くなります。だから、最近はもっともっとニュートラルになってデザインの仕事を始める前の頃の「素人レベル」の楽しさを思考のベースに置いて、もっとひとつひとつの仕事を楽しみたいと思っています。そう感じたきっかけがYouTubeの動画でした。素人さんが一生懸命ギターを弾いて歌を歌っている動画、さほどというレベルのイラストを楽しそうに描いて披露している動画、チープなカメラで一生懸命撮影しておられる写真作品などを見ていると、確かに仕事には使えないかもしれないが、なんだか底なしの「楽しさ」を放っておられるんです。ああ、結局、大切なのはこの「楽しさ」なんだと感じたわけです。この仕事をするにあたりいろいろな美辞麗句や理論理屈や複雑怪奇なセオリーは存在しますが、まずは自分にとっての「楽しい」を再確認しないと、仕事が消化試合になってしまいかねないかなと。長年、仕事をしてきたから、それなりにツールもテクニックもノウハウもあるわけですから、ルーティーンで流せばいい。お客様にはそんな内輪の想いなど関係ないと言ってしまえば関係ない。しかし、それは自分へ嘘をついていることになります。これが一番やっちゃいけないこと。だって、一見、クリエイターっていろいろ武装しているように見えて、中身はただ何かをつくるのが好きな素人なんですから。むしろ、そうあるべきなんじゃないかなと最近はよく考えています。